山神様にお願い


 シカの様子を聞きに龍さんに電話したいけれど。そんなことしたら散々からかわれたあとにツルやウマにも代わられて、しかもシカだけは出してくれなさそうだし。

 今はまだ、我慢だ。

「お疲れ~。休憩しようよ、コタ」

 橋本がアイスを両手に持って、ぺたぺたとやってきた。俺は転がったままで一つを受け取る。

「さんきゅ」

「ん」

 並んで座ってアイスを食べる。ちょっと溶けかけたそれは、口の中に広がってホッとさせた。

「婚約破棄だけどね、私達の。一応組に報告に行かなきゃいけないみたい。面倒臭いけど仕方ないよね。いつ行く?」

 橋本がそう言って、俺を見た。

 疲れきった体を壁におしつけて、俺はぼーっと考える。・・・報告?何だその面倒臭いの。もう結婚やめましたーでいいんじゃねーの?俺が黙ったままでアイスを食べていたら、隣でつらつらと橋本は話していた。

「それにしても、色気が出てきたよね、コタ。やっぱり男も女も30代が近づくと熟してくるのかしらね。それとも今好きになった人とうまくいっているのか、よね。あーんなに殺伐とした雰囲気で目つきも行動も言葉も怖かった夕波君とは同じ人物だと思えないわ~」

「・・・そんなにいかつかった?俺細身だし、髪色戻した後は普通だったでしょ」

「何言ってんの!凄い迫力あったよ~。黒髪だからって雰囲気が柔らかくなるわけじゃないでしょ。むしろその逆。気分が悪そうなときなんて、今話しかけたら殺されるかもって思ったこともあったよ~」

 マジで?ちょっと驚きながら俺はアイスを食べ終える。橋本は何やら楽しそうに話を続けていく。


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