山神様にお願い


「喧嘩してる時だってさ、コタは一言も話さないでしょ。黙ってギラギラの目で刺すみたいに睨みつけて、いきなり暴力奮うでしょ。あれって怖いよ。威嚇や宣戦布告なしの喧嘩はさ。だから有名だったし」

「そんなに?だってお前、俺を怖がってるそぶりなんてなかったじゃん」

 彼女が大きな声であははは~と笑った。

「私は相模組で育ったんだよ!外見がいかつい男ばかりの中で!怖くても、自分が危ないかどうかは判るわよ。でもコタは同じ年なのに、どうしてここまで荒れたんだろうって思ってたから、その雰囲気が強調されたのかもね~」

 さて、と食べ終わったアイスの棒をそばにあったゴミ袋に投げ入れて、彼女が立ち上がった。

「明日でいい?さっさと終わらせよう、片付けも、報告も。でないとコタローが壊れちゃうかもだし」

「あ?」

 言ってる意味が判らなくて顔を上げた。橋本朔美はにっこりと綺麗に笑って言った。

「会いたくてたまらないんでしょう、彼女に。さっさと終わらせて、君を解放してあげないとね」

 って。

 ちょっと、いや、かなり驚いた。

 そんなにバレバレな感じなのかと思って。

 俺もゆっくりと体を起こして、居間の家具を運び出す作業を再開する。今日中に部屋をあけないと、大家から苦情がくるのだ。

 壁、机、箪笥、玄関、トイレ、台所。

 どっちむいてもシカの姿を探してやがる・・・まったく、俺がこんなになるなんて。



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