山神様にお願い
婚約破棄の報告は、色んなところの痛みを生み出した。
まずは膝。
慣れない正座を久しぶりにしたせいで、足がつって立ち上がるときに転びかけた。
黒服に三白眼の兄さん達がずらりと並ぶ部屋の真ん中でそれはいただけない。
それに頭も。
相模組を継いだ結城組長が、話の長い男だったのだ。
久しぶりに会った前組長の娘である橋本朔美の成長した姿に喜び、自分がどれだけ組長にお世話になったか、組が今どんな状態でどんな方向を目指しているのかを滔々と語り、その間、何のためにいるのか判らない俺は正座で長時間拝聴する羽目になったのだ。お陰で途中から頭痛に襲われた。耳も痛いぞ。それから手も痺れた。
緑もない、綺麗な空気もない、ただヤーさんばかりが大量にいる広い和室で、長い長い話を聞いていると酸欠になってくるみたいだった。
とにかく二人は結婚をしないことをようやく最後に報告出来て、俺はうちの組に入らないか、と再三あった誘いをもう一度断り、酒の誘いも断って、外へと出れたときには5時間が経っていた。
「ああああー!!!」
通りに出て、その人気のない路地裏で、いきなり橋本朔美が叫んだ。
「うわ、どうした?」
俺は驚いて彼女を見る。一瞬真剣に彼女が発狂したのかと思った。すると綺麗なアーモンド型の瞳いっぱに光をうつして、キラキラした笑顔で橋本が楽しそうに笑った。