山神様にお願い
阪上君がすっかり声変わりして低くなった声で、囁いた。
「ひばりさんと僕の間に、壁は必要ないでしょ?」
「ひ、ひ、必要です!それと、勝手に名前で呼ぶの止めなさい!それ以上一歩でも近づいたら、即行で家庭教師は辞めさせていただきますからね~!」
今は別の収入源もあるのだとようやく私は気がついて、それにすがって強気で言い放った。実際は思いっきりビビッてたけど、それは出さない努力はした。
怪しげなオーラを身にまとわせながら近づいてきていた阪上君は、その一言でぴたりと止まった。
一瞬で、17歳の少年に戻った。
「・・・本気?」
「本気よっ!」
整ったアーモンド形の目を細めて、阪上君は私をじっと見る。若干化石のようになって固まった私だった。
・・・何だか、今までで一番危機を感じてるんですけどお~・・・。うわーん、どうしよう、どうしたらいいの!?
よく見なくても、この男の子は格好いい。その整った顔を無表情で凍らせてじっと見詰められると、それは思った以上の迫力があった。
・・・やば。
彼が次の行動に出る前に、下にいらっしゃる阪上家のお母様を呼ぼう!そう思うと同時くらいに、彼がふう、と息を吐いた。