山神様にお願い


「どうして?センセーいるんでしょ?僕知ってるんだよ」

 ハッとした。私はひきつった口元を隠しもせずにニヤニヤと笑う男の子を見詰める。

「阪上君、勝手に私の鞄の中を漁ったのね?」

 声は自動的に低くなった。

 実は、学生課からの頼みで、夏休みのオープンキャンパスの手伝いをすることになっていた。

 就職が決まったことを告げにいった学生課で、それでは時間ありましたら是非、と言われて、その時はまだバイトも家庭教師だけだった私は引き受けたのだ。

 それの決定通知が入ったままの通学バックで、家庭教師に来たことが一度だけある。私がトイレに行ったか、阪上家のお母様と話している間に盗み見たに違いない。

 私は腰に両手をあてて我が生徒をにらみつける。

「人の持ち物を勝手に触るなんて、とんでもないことよ!」

 彼はにっこりと微笑んだ。両膝を抱えあげていて、子犬モード(本人談)になっている。

「漁るだなんて、人聞き悪いよ、センセー。鞄からはみ出してたから拾ってあげたのにさ。ちゃんと丁寧にしまっといてあげたんだよ、僕」

「信じないわ。あなたが盗み見たというなら納得するけど」

「わお、酷いんじゃない?僕とセンセーの仲でしょ」

「それ故にだと思った方がいいわよ」



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