山神様にお願い


 その後の予定をボーっと考えながら、サンドイッチをパクつく。流れるように食べていて、気がついたらなくなっていた。何か、損した気分だ。あれ、食べたの誰?という感じ。

 冷たい紅茶を飲み干す。赤い液体の向こうに、夏の太陽が反射して眩しかった。

「さて」

 声に出して、お尻のチリを払った。学生課に寄って、帰ろうっと――――――――


 ところが、私の本日の困難は、これからだったのだ。



「センセー、はっけーん!!」

 声がした、と思って振り向いたときには、すでに私の体には長い腕が巻きついていた。

「うひゃあっ!?」

 驚いて甲高い声をあげてしまう。途端に突き刺さる方々からの視線に、いっそ殺してくれ、と願うような恥かしさだった。

 だって、ここは図書館なのだ。

 学生課が入っている事務棟の隣、我が大学が誇る図書館がある。

 その図書館の入口入ったところ、盗難防止のセンサー前。つまり、一番人の多いところ。

 図書館に入ろうとした私は後ろから抱きつかれて、大声を上げてしまったのだった。


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