山神様にお願い


 小さな声しか出なかった。店長は前で、首をぐるっと回してため息をついた。

「帰るか?今日は暇だから、しんどいなら上がっても問題ないよ」

「いえ、頑張ります」

 うん、店長は頷いた。だけど、もう私を見ていなかった。手を伸ばして一番近いポトスの葉に触れる。

「あ、水だ」

 そして立ち上がると、端っこにおいてある霧吹きを持ってきて植物の手入れを始めた。

 えーっと・・・。私はどうしていいのか判らずに、そのままで席から店長を見ていた。

 ・・・もう終わり、なのかな。会話は終了?黒い瞳は植物だけを見ている。私はその視線を追いながら、それを寂しく思っていることに気付いてハッとする。

 ・・・あらあら、ちょっと。何で寂しいなんて。さっきまでは、見られていることに怯えていたくせに。

 時計をみると、休憩時間はあと10分。ちょっと早いけど、店長はもう違うことをしているし、ここで目の前で寝るのもどうかと思うし、下に戻ろうか。

 とりあえず、今晩は最後までバイト入っていいんだよね?既に植物の世話に没頭している店長に改めては聞けなくて、静かにため息をはいた。

 空になった食器を店長の分も持って立ち上がる。

「これ、持っていきますね」

「あ、ありがと」


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