幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
広間には試衛館の面々がそろっていた。
みなそれぞれに斎藤と再会の喜びをかみ締めていた。
酔いつぶれて朝餉に顔を出さなかった永倉も復活している。
その永倉は譲が広間に入ってくるやいなや、声を荒げる。
「ゆーずーりーーー!!!」
先ほどまで堂々と胡坐をかいていた永倉は大股でこちらに近付いてきて、数回瞬きをしているうちにも、目の前まで迫っていた。
譲は一歩後退する。
言われることは大体想像がついていたが、一応、尋ねる。
「どうしたんですか、新八さん」
「どーしたじゃねえよ!今日の朝飯、鮎がでたんだろ!?どーして全力でたたき起こしてくれなかったんよ!?」
譲にがみがみ文句や不平不満を言う永倉の耳をぐいっとつねったのは原田だった。
見るからに痛そうである。
「馬鹿かてめえは。譲がお前のためにそこまでしなきゃならねえ道理なんてねえだろうが!」
原田にお説教をくらっていると、斎藤と挨拶をおえた帰りの平助が同感というように首を振る。
「それに、譲にしんぱっつあんが寝てる姿を見せるわけにはいかねえ」
譲は言われてる意味がよく理解できずにうーんと唸る。
譲の鈍感さを受けて平助の言葉にさらに説明を付け加えるのは総司。
「そうだね。年頃の娘に、新八さんの半裸を見せるわけにはいかないよねえ」
頭が痛いというように原田が頭を抱える。
「酒を呑むといつもそうだ。ったく、世話がやける」
譲はつとめて笑顔を振舞っていたが、内心では堅く誓った。
(よっぽどのことがない限り、新八さんの部屋には絶対に行かないでおこう)
好き好んで男の裸を見る趣味などない。
むしろ、迷惑だ。
譲のなかで、大きく、永倉に対する好感度が大幅に、かなり、どん底まで、下がった。
そして、斎藤と挨拶をすませた後、みんなは各自で好きなように時間をすごしていた。