<短編>夢への片道切符
「そうか。どうだいここコーヒーは。」

老人はしわくちゃの顔に笑みを浮かべ聞いてきた。

「ええ、まぁおいしいですよね。」

とりあえず私は美味しいと嘘をついた。

「ほぉ。めずらしいね。大抵の人はまずいと答えるのだが。お嬢ちゃん、ほんとにおいしかったのかい?」

今度は鋭い目で問いかけてきた。

なんなの。この老人。私の額には冷や汗が浮き出ていた。

「ホントは、あんまりおいしくなかったです。」

正直に言った。嘘つき呼ばわりされたくなかったから。

「そうかい、やっぱり。昔からここのコーヒーはあまり美味しくないのだよ。」
老人はそっと小さい声で教えてくれたそして顔には妖しげな笑みが浮かんでいる。

なら、なんでこの人はわざわざ30年もここに通いつめ、コーヒーを毎回頼んでいるのだろう。

もしかしてコーヒー以外にメニューがないとか。私もとっさにメニューも見ずコーヒーと頼んだから、あり得る。
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