恐怖短編集
そしてまた、ここまできて東夜の足は立ち止まっていた。


全く出入りする気配も感じられない入り口を前に、妙な胸騒ぎもする。このまま入ってしまえば、出て来れなくなるかもしれない。


様々な思いが駆け巡る。


でも……、出てこれても、出て来れなくても同じ。


あいつは帰ってくる事はないのだ。


ならば、最後に会えるかもしれないという確立が少しでもあるのなら、入るしかないじゃないか。



そう思うと、東夜は自分に気合を入れるように一つ息をつき、病院の中へと入って行った。


後ろで自動ドアが閉じた瞬間、看護婦や患者の視線が東夜に注がれ、いいようのない吐き気に襲われた。


クラクラとしためまいを振り払うように、東夜は辺りを見回した。


蛍光灯はキチンとついているのに、なぜか全体的に暗い雰囲気を漂わせていて、並んでいる長いすには所々シミや破れが見られる。


不思議なのは、患者は沢山いるのに、隅の一つの長いすには誰も座っていない事だった。
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