ほどよいあとさき
明るい未来を期待できない人生。
そんな人生を覚悟していた歩の家族にとって、歩の結婚は大きな喜びであり、未来への希望だ。
同じく結婚を諦めている歩の妹の灯さんも、「私も、結婚できるかな」と俯きがちに呟き、自分の将来に、結婚の可能性をひっそりと加えたようだった。
もしかしたら、灯さんにも結婚したいと思う大切な男性がいるのかもしれない。
ううん。
きっといるはずだ。
私が着ているウェディングドレスを見る瞳の向こう側には、誰か大切な人を思い浮かべているような光が見えた。
けれど、その光を抑えようと視線をそらし、小さなため息。
そんな様子を目の前にしても、私は何も言えなかった。
これからは、歩の家族の一員となって、歩たちが背負っている悲しみを私も共に背負うけれど、これまで苦しんできたそれがどれほどのものなのかは一生かかっても完全に理解することはできないから。
ただ、将来、灯さんが本気で結婚したいと思う状況になった時には、その願いが成就するよう全力で応援しようと思う。
今、私が歩と結婚して感じている幸せは極上で、この幸せを灯さんにも感じて欲しい。
今までたくさんの悲しい思いをしてきたんだから、未来は明るいものであって欲しい。
その想いと同じくらい、交通事故で悲しい運命を背負わされた被害者の方々にも明るい未来を、と願わずにはいられない。