魅惑のハニーリップ
 病院に着くと、夜診を待つ外来の待合にはたくさんの人がいた。
 私はその中、真っ先に受付に飛び込んだ。

「すみません! 先ほど救急で運ばれた人はどこですか?!」

 息を切らして言う私に、受付にいた女の人が一瞬ポカンとした顔をする。

「落ち着いてくださいね。今運ばれてきた方ですか? お名前を伺いたいんですけど……」

 パソコンを操作しながらも、受付の人は至極冷静だ。
 私は完全にパニックで、宇田さんの名前すら伝えずに気持ちだけが焦っていた。

「宇田です。宇田聖二です」

「あ、はい。確かに運ばれて来てますね。あちらの救急の処置室か、脳波の検査かのどちらかに……」

 説明がまだ途中だったけれど、私は指をさされた方向へ慌てて走り出す。

 不安でたまらなかったから。
 ……宇田さんが交通事故だなんて信じられない。
 病院に運ばれただなんて。

 私……まだ気持ちを伝えていないのに。

 自分の、宇田さんに対する気持ち。
 さっき気づいたばかりの気持ちを。
< 51 / 166 >

この作品をシェア

pagetop