魅惑のハニーリップ
「はい。私も出張に呼ばれちゃって。和久井さんも一緒だったら心強いです。よろしくお願いします」

「この仕事は特にキツいからね。宇田さん、よく頑張れてるなーって思ったけど、こんなことまで用意周到とはなぁ」

 少し呆れ気味に和久井さんはクスリと笑う。用意周到って……なんだろう?

「いや、遥ちゃんのことだよ。どうせ上になんとかうまいこと言って、遥ちゃんを出張先に寄越すようにしたんだろうな」

 ポカンとしていた私に、和久井さんがニヤリとしながら小声で呟く。
 ……予想が的中してるんですけど。

「そりゃ宇田さんだって、遥ちゃんみたいな“癒し”がないとやってられないよ」

 和久井さんは大袈裟に疲れたジェスチャーをして、私を笑わせてくれた。
 和久井さんってこういう面白い一面も持った人だったんだ。
 意外に楽しい人なのかもしれない。

「あ、ごめんね。後輩がミスりそうだから、俺行くわ」

 遠くの現場の一点を見つめて、和久井さんが心配そうな顔つきに変わる。

「浅田は新人で、まだ慣れてないから仕方ないんだけどさ」

 ポツリと最後に呟かれたその名前に、私の脳が大きく反応を示した。

 “浅田さん”って……


< 84 / 166 >

この作品をシェア

pagetop