魅惑のハニーリップ
「あのぅ、浅田さんって営業二課の人ですか?」

「そうだけど、遥ちゃん知ってんの?」

 やっぱりだ。宇田さんを好きだっていう例の女の子がここにいる。

「いえ。私は面識はないです。うちの部の新人の子から浅田さんの名前は聞いていたもので」

「そっか。けっこう失敗の多い子でね。俺、フォロー行って来るね」

 和久井さんは爽やかな笑みを残しながら、小走りに立ち去って行った。

 思わず和久井さんを目で追ってしまう。
 もちろん和久井さんが気になったわけではなく、“浅田さん”のフォローに行くと言っていたからだ。
 どんな人なのか、それが気になってしまった。

 和久井さんがグレーのスーツ姿の女性に声をかける。
 と同時に、私にもその子の顔がはっきりと見えた。

 とても……かわいらしい子。
 私なんかよりも、細くて……女性らしい人だ。
 途端に、自分に自信がなくなってきてしまった。

 だって、宇田さんが心変わりしないなんていう保証はどこにもない。

 私の気持ちだけで、宇田さんを縛ることなんてできない。

 人の気持ちは変わるし、変わる心を自分のところにとどめてはおけないから……


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