トイレキッス
「麻見君、そろそろ準備始めるで」
「あ、はい」
洋平は、他の部員達に手伝ってもらって、外に置いてあった大道具や小道具を運びこんだ。背景の壁の模型は、パーツごとにわけてから運びこんだ。藤沢は、BGMや効果音のテープを整理していた。
先生の手品が終わって、舞台の幕が降りた。幕越しに、まばらな拍手が聞こえてくる。先生は、疲れた面持ちで舞台裏を通りすぎ、部員達におじぎをしてから外に出ていった。
「行くで」
藤沢の掛け声と共に、部員達はいっせいに駆けだした。
本番までの十分の間に、舞台装置を完成させないといけない。洋平も、小道具の枕やぬいぐるみを持って走りまわった。舞台の床に絨毯を敷き、背景の壁の模型を組み立てる。そのまわりに家具を少し置いて、殺風景な舞台を、女の子の部屋に変えてゆく。
七分程でそれはできあがった。
自分が藤沢と作った大道具や小道具が、舞台の上でひとつの別世界をきちんと生みだせたことに、洋平はそっと感動した。
部員達が舞台裏にさがると、仁さんはゆっくりと立ちあがった。三田村もむっくりと起きあがる。ミツキが、深呼吸を一回して、よし、とつぶやいた。他の役者達も、それぞれのやり方で気合いをいれている。
「がんばりや」
洋平がささやくと、ミツキは親指を立ててみせた。
役者達は、舞台に出て、それぞれの配置についた。
「準備できた?」
司会進行の若い男の先生が、舞台裏にやってきて聞いた。藤沢は、舞台の様子を確認してからしっかりとうなずいてみせた。先生はうなずき返すと、すぐに舞台裏から出ていった。それから数秒後、その先生のマイクでしゃべる声が、幕の向こうから聞こえてきた。
「次は、近くの高校から来てくれた、お兄さんお姉さん達による、楽しいお芝居です。タイトルは、『十人のサンタクロース』」