トイレキッス
幕が降りてゆくと、はちきれんばかりの拍手がはじけた。
もっとやってや、という園児の声がかすかに聞こえたとき、洋平は、ひとを楽しませるって素晴らしいことやなあ、と素直に思った。
役者達が舞台裏にもどると、部員達は後片付けを始めた。
洋平が、男子部員といっしょに背景の壁の模型を解体していると、制服に着替えたミツキがそばにやってきた。
「さっきはありがとう。ほんまに助かったわ」
「おう、お疲れさん。どやった、初主演の感想は?」
「なんか、あっという間やったわ。本番前はめっちゃ怖かったけど、演りはじめたら急に気が軽くなって、それでするする演じてるうちに、すぐ終わっちゃったって感じ」
「なあ、麻見」同じく制服に着替えた三田村が、横から声をかけてきた。「川本が台詞を思い出せたとき、おまえ巻き尺をいじくっとったよな。あれは一体何やったんぞ?」
「ああ、あれはですね」
洋平は説明をした。
ミツキが台詞を忘れたシーンは、三田村が演じるサンタクロースのふりをした泥棒の正体を暴くシーンだった。
淵上がさしだした台本を読んでそれを知った洋平は、前に藤沢といっしょに舞台の寸法を計りに行った日に、ミツキが目の前でそのシーンを演じてみせてくれたことを思い出した。
そのとき、洋平は巻き尺を持っていた。
もしかしたら、巻き尺を見せたら、ミツキはそのときのことを思い出すかもしれない。そう考えた洋平は、ミツキにむかって、巻き尺で寸法を計るふりをしてみせた。あまり自信はなかったが、ミツキはなんとか台詞を思い出してくれた。
三田村は、感心したようにミツキを見た。
「そんなんでよう思い出せたの」
「あのときは、ちょっといやなことがあったけん、よく覚えとったんです」
ミツキの表情が少し暗くなった。
「三田村先輩、後片付けが終わったら、もう解散ですか?」
洋平はわざと話を変えた。
「いや、このあとは、お好み焼き屋で、クリスマスパーティーをかねた打ち上げをやることになっとる」
それを聞くと、ミツキの表情が一転して明るくなった。
「打ち上げ?やった」