トイレキッス
「あーあ、おっ始めてしもた」
三田村はため息をついて立ち上がると、おらぁ、と叫びながら男達に飛びかかっていった。他の数少ない男子部員達も、それに続く。
洋平も、数秒遅れて座敷を飛びだした。しかし、男達の狂暴な目付きを見て、思わず立ち止まってしまった。
喧嘩のやり方というものが、まったくわからない。
自分の臆病さに歯ぎしりする間もなく、はげた男が殴りかかってきた。
反射的に、洋平は右腕をつきだした。
すると、手が偶然に相手の目に当たった。
相手は、あっと声をあげて目をおさえた。
そのとき、なぜか霧が晴れたかのように、洋平の胸から恐怖心が消えさった。
自分みたいな臆病者でも、腕を動かせばひとを殴れる。
そんな当たり前のことに、いま初めて気付いたかのような気分だった。
恐怖心が消えると、急に全身の血がわきたってきた。
洋平はまだ目をおさえている男の腹に蹴りをくらわせた。
そのあとはもう無我夢中だった。
視界にはいる土方風の男達に、片っ端から殴りかかっていった。
当然こちらも何度も殴られて、体の様々な部分に鈍い痛みが残ったが、酔っぱらいの攻撃だからか、あまり気にならなかった。
足元で悲鳴があがった。
見下ろすと、男子部員が太った男に踏みつけられていた。
とっさに洋平はその太った男をつきとばした。
そのとき、仁さんのせっぱつまった叫び声が聞こえてきた。
「後ろ後ろ、麻見、後ろ」
ふりかえると、眼前に一升瓶がせまっていた。
脳天に、ごつんと重い衝撃がはじける。
土方風の男のひとりに、一升瓶で思いきり殴られたのだ。
洋平の意識は、一瞬で遠のいていった。