トイレキッス


不意打ちだった。


三田村の死は、演劇部の部員達にとって完全な不意打ちだった。


今回の芝居の主役がいなくなったため、卒業生送迎会に向けての練習は中断された。部活動も、しばらく休止されることになった。
病院に行った日以来、洋平は笑うことができなくなっていた。作り笑いすら浮かべることができない。一度鏡の前でむりやり笑顔を作ってみようとしたが、口元が固くなっていて、動かせなかった。


三田村の葬式が終わってから一週間後、演劇部の活動が再開された。
放課後、洋平は重い気分で部室へむかった。笑えないことがこんなにつらいとは思わなかった。まるで、胸の内側が腐ってゆくような感じだ。たぶん、他の部員達も、同じような思いを味わっているのだろう。今日の部活は暗い雰囲気になりそうだ、と思いながら、洋平は部室のドアをくぐった。


部室の中は、笑いに包まれていた。
集まった部員達は、三田村が死ぬ前と変わらぬ気さくな様子で雑談をかわしていた。
暗い表情をしてる者はひとりもいなかった。
自分の予想がはずれたことに面食らって、洋平は目を丸くした。ミツキが駆けよってきた。彼女も、以前と変わらない明るい笑顔をうかべていた。


「やっほ、元気?」


「お、おう」


「ねえねえ、聞いてや聞いてや。あたし昨日ね」


ミツキは自分の家で、文鳥を飼いはじめたのだという話をした。洋平は相槌をうちながら、ぼんやりとそれを聞いていたが、しばらくすると、だんだんと腹がたってきた。


こいつら、三田村先輩が死んでから、まだ一週間くらいしかたってないのに、なんでそんなに笑えるんぞ。


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