「視えるんです」
「わっ……」
突然のことに反応出来ず……うっかり、ペットボトルを落としてしまった。
「せんせー……突然投げるなんて、危ないじゃないですかー……」
「反応出来ないお前が悪い」
「う……すみません……」
「本田はトイレに行ったか?」
「あ、はい。 知ってたんですね」
「そりゃあ、担任だもん」
なるほど。
音楽の授業で会うだけの私と違って、翔先輩は毎日担任の半沢先生と会うんだもんね。
話す時間だって、私の数倍あるはずだ。
「……あのー、先輩がトイレに行ったのを知ってるのに、先生は行かないんですか?」
「なんで俺が行かなきゃいけねぇんだよ」
「えー? だって、先輩を守るって誓ったんでしょう?」
「たかが猫だろ。 俺が手ぇ出すまでもねぇよ。
大体なぁ、猫を『上』へ送ったって一銭にもならねぇじゃん」
……あー。
そういえば先生は、報酬第一の人だった。
先輩に何かがあったら、そりゃあ助けに向かうんだろうけど……『手ぇ出すまでもねぇ』ってのが、当たりなんだろうな。
「あ……でも先生、この前は一銭にもならない仕事、してましたよね」
「あ?」
「ほら、翔先輩と私が一緒にGSの仕事場に行った時ですよ。
色んな場所で、子供たちと話してたじゃないですか」
「あー、アレか。 幽霊がお前にビビって逃げてたな」
「う……それはもう言わないでください……」
すっかり忘れてたけど、そう言えばそうだった。
私、子供たちに逃げられたんだよなぁ……最上級の笑顔だったはずなのに。
まぁそれは置いておこう。うん。
「……で、先生はどうしてあの仕事を?
いつも『報酬がー』とか言ってるのに」
「ん。 まぁ、子供だから、な」
「子供、だから……?」
……確かに、幼いうちに亡くなってしまい、この世とあの世の間に挟まったまま。という状況は、やりきれないものがある。
その子たちを救うことが出来るなら、と、私も思うけど……。
先生の表情が少し暗くなったのが、なんとなく気になった。
「……実はなぁ、俺の息子、事故で死んでるんだよ」
……え?