「視えるんです」


【高校三年生、屋上から転落】

【フェンスの劣化が原因か】

【明るく真面目な生徒、遺書などは無し】

【卒業まであと一週間】

【進学先も決まっていた】

【不幸な事故】

【両親、学校側を提訴】






……転落、事故……。




「明るく……ってのは、雨宮とは違うかなと思ったんだけど。 ここ見て」




先輩の指差すところに、転落した高校生の名前が小さく書かれていた。




雨宮 秀一




写真などは出ていなかったけれど、多分これが、私たちの知っている雨宮さんなんだろう。

秀一。
それが、雨宮さんの名前……。




「雨宮は自殺した。 でも記事では事故になっている。
これは多分、雨宮がそういう風に偽装したんだと思う」

「どうして、そんなことを……?」

「ここ見て」




もう一つ、別の記事を指差す。

そこには……学校側が両親に対し、2000万の損害賠償を支払う。と、書いてある。


……生きていた頃の雨宮さんは、きっとこれを予想していたんだろう。

自分が死んだあと、両親へのせめてもの恩返し……きっと、そういう意味なんだろう。




……でも。

雨宮さんのお父さんのコメントに、胸が打たれる。




【「それでも息子は、帰ってこない」】




……残された人の気持ちは、決して晴れることはない。
それが、どうしようもなくツラい。




「……雨宮さんは、亡くなったあと……家族のことは覚えていなかったんでしょうか」

「覚えていなかったと思う。
アイツはすぐにその場を離れ、フラフラしてたはずだから。
『雨宮』という名前、『自殺した』ということ、そして『幽霊になった目的』、それくらいしか覚えてなかったんじゃないかな。
もっとも、俺は『幽霊になった目的』は聞いてないんだけどね」




……そっか。

雨宮さんが幽霊になった目的を知ってるのは、私だけなんだ……。


雨宮さんは、私だけに話してくれたんだ。


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