「視えるんです」


以前の私なら、ガタガタ震えて泣きじゃくっていただろう。

でも私は今、先生のシャツにすがりついているものの、たいして震えることもなく、涙が出ることもなく、そこに居る。


いや、正確には……身動きが、取れないのだ。

本当は凄く怖い。 体だって震えてるはずだし、涙だって出てるはずなのに。

なのに、体が動かない。



金縛り

多分、ソレだ。

音楽室の空気は冷たく、重い。
昼休みの騒がしさなど全く感じない。

この感じは、あの時に似ている。
鏡の女を見た、あの時に……。




「本田と一緒に居る時より、危ない目に遭うかもな。
ま、俺はお前の反応を見るのが楽しいからいいけど」




……重苦しい空気の中だというのに、先生はいつもと変わらない。

すがりつく私の頭を先生がポンポンと叩いた、その瞬間。 私は金縛りから解放され、体が動くようになった。

そのおかげで、体は震えるし叫び声も出そうになるけれど。

こういう時こそ、落ち着かなきゃいけない。
そう、落ち着かなきゃ、ダメなんだ……。




「なんだ、やけに落ち着いてるな。泣き叫ぶ姿が可愛かったのに」

「馬鹿なこと、言ってないで……なんとかしてください」

「ところでお前さぁ、今視えてんの?」

「え? あ……いえ、何も……」




重苦しい空気の中に居るものの、何かが視えるということはない。

でも私、雨宮さんが視えたんだから……先輩や先生のように、視えるようになっちゃったと、思ったのに……。


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