ONLOOKER Ⅴ

「大友さんも大変だね、こんなおつかい頼まれて」
「私は、部では最年少ですもの……でも、まぁ」


麗華は、ハの字になっていた眉をきゅっとしかめてみせた。
唇を尖らせて、腕を組む。


「私個人としては、そんなわがままを聞いてさしあげることないと思ってますわ。そもそも見学を申し込んで来たのも、あちらからなんですもの」
「あ、そうなんだ。どこの学校も暇な時期じゃないはずだけど……ずいぶん強引だね」


強引、という言葉で真琴が思い出したのは、映画祭の時に話しかけてきた、名桜館高校の学生たちだった。
いや、印象に残っているのは映研部の部長ただ一人だ。
真琴のファンだと言って挨拶に来たはずが、いつの間にか話題は無関係な映画監督のことに終始していた。
要するに、好きな映画監督へのコネを作ってほしくて、彼の作品に参加したことのある佐野真琴に近付いてきたというわけだ。

挨拶もそこそこに、あからさまに社交辞令だとわかる誉め言葉をいくつか並べられては、隠せる下心も隠せない。
結局早々に切り出した「監督に紹介してほしい」という話が本題だったのだと、誰が聞いていたってわかっただろう。
彼の強引さは、映画祭が終わって二週間が経った今でも、鮮明に不快感を思い出させるほどだった。

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