ONLOOKER Ⅴ

「まさか、あのコネ狙いのごますり部長じゃないよね……なんだっけ、田所?」


直姫も、全く同じ人物のことを思い浮かべていたらしい。
あまりにぴったりのタイミングで名前が出たので、真琴は、自分が声に出してしまったのかと思ったくらいだった。
直姫のほうを見ると、片眉をひょいと上げて見せる。
麗華は、小さく首を傾げた。


「そんな名前でしたかしらね……田村さま? いえ、田辺さま……」


彼女の言葉を聞いて、二人は苦笑いを浮かべ合った。
似たような名字なんていくらでもある。
尊敬する監督へのパイプ役を頼むためだけに、わざわざ部室見学を申し込んで忙しい真琴に時間を作ってもらうなんて、並みの行動力と常識ではできないだろう。

スピーカーから、音質の低いチャイムが鳴った。
きんこんかんこん、というポピュラーな響きは、この悠綺高等学校の唯一高等学校らしいところだ。
真琴は席に戻る前に、慌てて言った。


「大友さん、とにかく今日はちょっと無理そうなんだ、ほんとにごめんね」
「いいえ、お気になさらず! ご無理はなさらないでね」


授業がはじまってから気付いたのは、結局先方の学校名も、どんな学校なのかも、ほとんど聞けなかった、ということだった。
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