ONLOOKER Ⅴ
上から光の入る窓。
すぐ向こうの景色は、ただの蔦の這った石の塀だ。
それが独特の雰囲気を作り出しているのか、もしくは濃厚すぎないコーヒーやバニラの香り、あるいはオレンジがかった照明と木の壁にかかった絵のせいか。
そんなものをぼんやりと眺めていて、ふと思い出す。
「夏生に連絡しなきゃね」
「あ、そーねえ」
「メール打っとく」
「うん」
静かな雰囲気に呑まれて、自然と声が抑えられる。
聖が携帯電話を操作している間の、わずかな沈黙。
夏生からの返事は意外に早く、迎えに行くから詳しい場所教えて、と簡潔に書かれていた。
「えっと……店の名前、なんだった?」
「え、わかんにゃ……あ、コースターに書いてある」
少し濡れた紙製のコースターには、くせのある英字が書かれていた。
手描きなのだろう、店名らしい『CLOUD』だけは全て大文字で書かれているが、大きさが不揃いで文字が歪んでいる。
それが妙にバランスが取れていて、味のあるロゴになっていた。
「ドラッグストア向かい、と」
「どんくらいかかるかにゃー。会場はすぐそこなんだけろ。歩いて五分くらい」
「えっ、そうなの」
「そーよ?」
あっちの角を左に行くとさっきのコンビニの前に出るでしょ、そしたら向こうにずっと歩いて突き当たりで左に行ったらあるにょろ。
そんな説明を口頭でされても、ただでさえ自分がどこにいたのか知らない上、適当に走り回って余計現在地がわからなくなった聖に、伝わるはずもない。
眉を寄せて首を傾げる聖に、恋宵は苦笑いをしてアイスコーヒーを飲んだ。
「きっと全部上映終わってるねえ」
「あとでDVDで貰えるはずだけどね……生徒会室で観ちゃえ」
「他の学校のも観れるにょろ? 楽しみ」
その頃会場では最優秀作品賞の発表が済み、優秀作品賞、つまり二番手だった他校に絡まれた真琴がなんとか逃げ出していたなんてことは、二人には知る由もない。