ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ 【完】
殺伐とした空気をはるかに上回る殺気に、彼は半狂乱で銃を構える。
「う゛あ゛ぁ゛ーっ!」
――ギッ、ギッ。
「……な、なんでや!?」
なぜか、引き金は微動だにしない。
「チッ。お、お゛前ら! なんか見えとるんか!? はよ助けぇや!」
「か……彼女が、あなたの身体に這いあがろうとしてます」
「な……なに言うとんねん! 彼女って誰や!」
「……伊達磨理子」
「磨理子!? ヒィイッ!」
その顔は、戦慄を絵に描いたような形相だった。
へたりこんで無様に広げられた足の間から、上半身へと磨理子が這いあがっていく。
「かか勘弁してくれ! あれは、敏也が、いつもの礼やって! どうかしとった。無抵抗のアンタに。……ホントは、ホントはいつか助けて
やるつもりだった!信じてくれー!」
……今川も、客のひとり!?
磨理子は今川の顔の前で左右に首を傾げる。
言葉を聞いているのか、それとも、どう殺すかを決めあぐねているのだろうか。
「た、た! 頼む゛! 許してくれぇーっ! ガッ……カハッ」
シュルッと音を立てて首に巻きつく長い髪。
都合のいい言い訳を聞くまいとするように喉をつぶす。
「ガハッ……ガガ……」
口、瞼、鼻、耳。
――ジュルジュルジュルジュルッ。
穴という穴に磨理子の髪が侵入していく。
……今なら、彼を殺すことに夢中な今なら、逃げられる。
とっさにそう思った。
だが、足がすくんで立ちあがれない。
誰ひとりとして逃げおおせる者はいなかった。
「グァ……ケハッ……ッ……」
すぐに今川は動かなくなった。
それは”死”を意味する。
絶体絶命の窮地に現れた呪いの化身。
……もしかして、磨理子さんは俺たちを助けてくれたのか……?
いまだ恐怖のまっ只中にいながら、わずかばかりの安堵を感じる。
しかし、
「ぁ゛……」
甘かった。