ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ 【完】
まだ足に力が入らない様子の沙奈。
「わ、私も行く!」
立ちあがろうと必死だ。
「キャ……」
俺はバランスを崩した沙奈を受け止めた。身体ごと抱きしめるように。
「「…………」」
彼女は震えていた。
「ね……ぇ」
「ん?」
「私たち、みんな死ぬの?」
「そ、そんなわけないだろ!」
そして、絶望していた。
この空間には、俺たちを命懸けで守ろうとした浦野の正義と、狂った悪の根源、今川の死体がともに横たわっている。
希望なんてどこにもない。
それでも、俺はあきらめない。
「俺が由香里を追いかける! 沙奈は今すぐ警察を呼んで、ここで待っててほしい」
「イ……」
「頼む! 言うことを聞いてくれ」
首を横に振りかけた沙奈を見据える。
「……ぅん、わかった」
ひとりにするのはたしかに気が引けた。
だが、連れていくのも危険すぎる。
「じゃあ……行ってくる」
頬に手を添え、親指で涙を拭う。
「うん……」
――タッタッタッタッ!
門の前の階段を駆けおり、左右を見渡す。
人の姿はない。
……まだ、そんなに遠くへは行ってないはず。
視界に入るのは鍵をつけたままの原付バイク。
考える間もなくそれにまたがり、スターターを押す。
「どこだ、由香里」
いくら風を切っても、歩く人影さえ見当たらない。
やがて大通りに出た。
コンビ二、レンタルビデオ屋、ファミレス。
手当たり次第店員に声をかけたが、由香里らしき人物を見た者はいなかった。
……ガソリンスタンド……。 いや、こんな所に由香里がいるわけがない。
俺は気にも留めず通過しようとした。
が、
――キキィーーッ!
「……これは!?」
鼻をつく臭いに、原付のブレーキをかける。
深夜で客はひとりもいないにも関わらず、スタッフは忙しなく駆け回っている。
「あのー……、なにか、あったんですか?」
「え?」
だが、俺を見るなり、邪険に扱う。
「今ちょっと使えないから! ちがうスタンド探してくれる!?」
ある箇所だけが水浸しで、異臭はそこから漂っていた。
「なにがあったのかだけでも……」
するとスタッフは帽子を取り、シャツで汗を拭いながら言った。
「女の子が、10代かな? キミと同じぐらいの。その子がいきなり歩いて来てさ、手足にガソリンをかけてねー」
「女の子!?」
「ああ!」
……まさか!?
「由香里……」
その名前を呼んだとき、
――♪ピロロロッ♪
と沙奈からの着信。
『どうした!?』
『敬太! 今すぐ! 今すぐ帰ってきてっ! 由香里が! 由香里が……』
あとに続く言葉を聞かず、俺は携帯を持ったままアクセルをひねった。