ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ 【完】



まだ足に力が入らない様子の沙奈。

「わ、私も行く!」

立ちあがろうと必死だ。

「キャ……」

俺はバランスを崩した沙奈を受け止めた。身体ごと抱きしめるように。

「「…………」」

彼女は震えていた。

「ね……ぇ」

「ん?」

「私たち、みんな死ぬの?」

「そ、そんなわけないだろ!」

そして、絶望していた。

この空間には、俺たちを命懸けで守ろうとした浦野の正義と、狂った悪の根源、今川の死体がともに横たわっている。

希望なんてどこにもない。

それでも、俺はあきらめない。

「俺が由香里を追いかける! 沙奈は今すぐ警察を呼んで、ここで待っててほしい」

「イ……」

「頼む! 言うことを聞いてくれ」

首を横に振りかけた沙奈を見据える。

「……ぅん、わかった」

ひとりにするのはたしかに気が引けた。

だが、連れていくのも危険すぎる。

「じゃあ……行ってくる」

頬に手を添え、親指で涙を拭う。

「うん……」

――タッタッタッタッ!

門の前の階段を駆けおり、左右を見渡す。

人の姿はない。

……まだ、そんなに遠くへは行ってないはず。

視界に入るのは鍵をつけたままの原付バイク。

考える間もなくそれにまたがり、スターターを押す。

「どこだ、由香里」

いくら風を切っても、歩く人影さえ見当たらない。

やがて大通りに出た。

コンビ二、レンタルビデオ屋、ファミレス。

手当たり次第店員に声をかけたが、由香里らしき人物を見た者はいなかった。

……ガソリンスタンド……。 いや、こんな所に由香里がいるわけがない。

俺は気にも留めず通過しようとした。

が、

――キキィーーッ!

「……これは!?」

鼻をつく臭いに、原付のブレーキをかける。

深夜で客はひとりもいないにも関わらず、スタッフは忙しなく駆け回っている。

「あのー……、なにか、あったんですか?」

「え?」

だが、俺を見るなり、邪険に扱う。

「今ちょっと使えないから! ちがうスタンド探してくれる!?」

ある箇所だけが水浸しで、異臭はそこから漂っていた。

「なにがあったのかだけでも……」

するとスタッフは帽子を取り、シャツで汗を拭いながら言った。

「女の子が、10代かな? キミと同じぐらいの。その子がいきなり歩いて来てさ、手足にガソリンをかけてねー」

「女の子!?」

「ああ!」

……まさか!?

「由香里……」

その名前を呼んだとき、

――♪ピロロロッ♪

と沙奈からの着信。

『どうした!?』

『敬太! 今すぐ! 今すぐ帰ってきてっ! 由香里が! 由香里が……』

あとに続く言葉を聞かず、俺は携帯を持ったままアクセルをひねった。



 

< 120 / 161 >

この作品をシェア

pagetop