ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ 【完】
宇治木は小さな弾を元の場所に戻しながら、さびしそうに言う。
「亡くなったよ、……ついさっきね」
その言葉が、俺の胸を貫いた。
「まさか!?」
彼はうなずく。
「最初はものすごく嫌いだった。毎日口うるさく説教ばかりだし、上に平気で噛みつくほど、とにかく頑固で、この人といたら絶対に出世できないと思ったよ。ははっ! ……でも今は、誰よりも尊敬しているし、今の俺があるのも浦野さんのおかげなんだ」
心奪われる身の上話に、固く閉ざそうと決めた記憶が掘り起こされる。
「……壁掛け時計のすぐ下です」
「ん?」
「浦野さんが自分の意思で撃った最期の弾がそこに。きっと、宇治木さんに持っていてもらいたいはずです」
「自分の意志……。じゃあ、浦野さんを撃ったのは、やっぱり……」
俺は小さくうなずいた。
彼は眉間にシワを寄せ、必死に涙を堪える。
――コンッ、コンッ!
「ぁ゛、ああ!」
「……宇治木さん、ちょっといいですか?」
彼は、呼び出した相手とともに一旦、取調室を出る。
3分後……。
物憂げな表情で戻ってきた。
一瞬、宇治木に浦野の面影を見る。
彼も愛煙家かと思いきや、どうやら、ちがうらしい。
拳を強く握りしめながら、くやしさを前面に押しだしていた。
「浦野さんと今川の件は内々に処理すると、今、上からの通達があった。だから捜査は打ち切りだ」
「…………」
……また隠蔽か。
しかし、責めることはできない。
自分の身を守るため、俺も同じことをしようとしていたのだから。
「不可解な点がいくつもあるのに終息か……。この事件、確実に”なにか”あるな」
宇治木は無精ひげをさすり、鋭い眼差しを向ける。
言葉に出すのは危険だとわかっていた。
……でも、浦野さんが信頼していた彼になら……。
「手帳です」
「ぇ手帳!? もしかして……」
――ガチャッ。
まるで遮るように、扉が再び開く。
「準備できました」
「……ぁ、そうか。今からキミと女の子を、家に送り届けるよ」
「はい」
その先の話ができぬまま、取調室を出た。
「敬太!」
廊下で沙奈と再会する。
走り寄る彼女を思わず抱きしめそうになったが、4人の刑事の冷ややかな視線を感じ取り、寸前でやめた。
仲睦まじくいられるような場所じゃない。
今度は同じ車両の後部座席に乗せられ、見送る宇治木はガラス越しに深いまばたきをする。
俺にはわかった。
それが”手帳”の意味を理解したというサインだと。