ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ 【完】
「ことみちゃん! いるんだよね? ことみちゃーん」
最初はささやくようだった俺の声も、気持ちが高まるにつれ大きくなる。
――キャンッ! キャンキャンッ!
返事をしてくれるのは、飼い犬らしきポメラニアンだけ。
玄関の敷居を出ずに右往左往する小さな番犬。
その愛らしい様子じゃ、俺の決意を止められない。
「僕、入ります」
足を踏み入れると、うしろから腕をつかまれる。
「ダ、ダメだよ! 無断じゃ。親御さんの許可、取らないと」
「あの様子じゃ断られるに決まってます! もう彼女しか希望はないから……」
「し、しかしだなぁ……」
「お願いします!!」
つかんでいた手を強く握った。
同じ力だったはずのそれが、少しずつ弱まっていく。
「……わかったよ。俺はここで待ってる。その代わり、5分経っても部屋から出てこなかったら、そのときは、あきらめるんだよ!」
「はい!」
――キャンキャンッ! キャンキャンッ!
足にまとわりつく番犬とともに、俺は廊下を進む。
10歩ほど奥に入った所で、俺の足が止まった。
扉には、かわいらしい丸文字で”ことみのへや”と書かれていた。
……ここにいる。
「ゴクッ……」
俺は息をのみ、ノックする。
――コン、コン。
「ことみちゃん? いるんでしょ?」
――コン、コン。
「ことみちゃん!?」
……時間がない。
焦りに駆られ、ドアノブを回す。
――ガチャガチャ。
玄関は簡単に開いたのに、ここは固く閉ざされていた。
――コン、コン。
「頼む! 少しだけ話を……」
「…………」
――キャンッ! キャンッ!
相変わらず、犬の鳴き声だけがこだまする。
そうこうしている間に4分が経過。
「ダメか……」
落胆し、ドアに背中をつけて、へたりこむ。
心は絶望の淵に立たされていた。
そんな俺を見つめる、潤んだ瞳。
犬は、鳴くことをやめた。
きっと、俺の心が泣いていることを察知したのだろう。
「いい子だな、お前……」
その整ったやわらかい毛並みに触れていると、大切な人といるような安らぎを得る。
聞いていなくてもいい、吐きだすことで楽になりたかった。