ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ 【完】
鼓膜を破るかのような悲鳴。
『小泉!?』
ひとりの部屋で思わず立ちあがる。
『ひ、ヒ、……人だぁっ!』
『ヒト!?』
たったひと晩で、サナギから人間へと姿を変えたというのか!?
それが進化だとすれば、遥かに人知を超えている。
『ヒィ゛やあ゛ぁー~!』
身の毛のよだつ声が電話越しに響く。
『おい、おい! 小泉、落ち着け!』
諭す俺自身も額に汗がにじむ。
『ハッ、ハッ、なんだよあれ! 手も足もない、胴体だけの女だった、ハッ、ハッ……』
……手も足もない……女!?
俺はその女の名を、すでに知っているような気がした。
『伊達……磨理子……』
『え!? なに!?』
耳もとで、体を切り刻まれているかのような吐息が聞こえる。
『とにかく落ち着けって! 今すぐソイツを見るんだ!』
大きく息を吸ってから、それだけを告げる。
……まずは俺が落ち着くんだ。昨日の二の舞にはさせない!
『はぁ!? あんなおそろしいモン見れるか!』
だが、余裕を失った小泉は、全然言うことを聞こうとしない。
『い゛いから! 視野に入れている間は、絶対に動かないはずだ! 昨日のことをよく思い出せ!』
あとは記憶が頼り。
『……た、たしかに、川本くんが木の方を向いたときだけ動いてた』
小泉の声が真剣なものに変わる。
『そうだ! ソイツはルールに忠実だ。俺を信じろ!』
『……わ、わかった』
小泉の深呼吸を感じ、しばしの沈黙。
俺は、彼の家族が寝静まった家を飛び出し、全力で走る。
……頼む! 俺が行くまで、耐えてくれ。
固唾を飲んで、次の言葉を待つ。
『け、敬太! ……あ゛ぁぁ゛……い、いるよ……。さっきよりも近くに……俺のこと見てる!』
『いいか!? 視線を外すなよ! 俺も今、そっちに向かってるから』
もちろん電話は切らないまま。
『ここでずっと睨めっこしてろっていうのかよ!?』
『そうだ! 今はそれしか……』
時計を見た。
鬼を追い続ける時間が終わるのは、3時33分。
つまり……。