ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ 【完】
『う、動かずにくたばるより、動いてくたばる方がマシだ!』
どこか、あきらめたような声がしたあと、
《――ダッダッダッダッ。》
と電話の向こうで駆ける足音。
『やめろっ! ソイツから目を離すなって!』
『ハッ、ハッ、走ってりゃあんなモンに……』
突如、会話が途切れる。
『小泉!? どうした?!』
通話が切れたのかとディスプレイを確認すると、秒数はしっかりとカウントされていた。
『おい! 返事しろっ!』
『……なんでだよ』
耳を澄ませてやっと聞こえる、生気を失ったような小泉の声。
『え!?』
『ハッ、走っても走っても、ンッ、振り向いたら近付いてるんだ!』
『…………』
俺は彼の置かれている状況を想像してみた。
相手は生身の人間ではなく、おそらく”邪悪な霊”。
いくら走っても距離が遠ざかるわけではなく、背中を向ければ、さらに間合いを詰めている。
振り返った瞬間の戦慄は、鬼である者にしかわからない。
『こ、小泉……』
頭の中にいるだけで、俺さえ恐怖の渦に巻きこまれていた。
そのとき!!
『うわ゛あぁあーー!!』
《――キイィーーーッ!》
耳をつんざく音。そして……。
《プツッ……。プーープーープーー》
『小泉ーっ!!』
電話は、途絶えた。