ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ 【完】



ふたりは靴を脱ぐと、当たり前のように階段をあがろうとする。

「2階は! 俺の部屋はちょっと……」

俺は思わず声をあげて制止する。

この件がなければ、おそらく一生”刑事”とは無縁な沙奈を、驚かせたくなかった。

すると浦野は、俺の靴の横に並べられた小さな革靴を見て瞬間的に察したのか、

「あ、そうだ! 足だけ洗わせてくれないか? ここ最近、家に帰ってなくてね」

と今川を押し戻す。

「えぇ、どうぞ」

たしかに、ふたりの足もとは少し臭っていた。

風呂場に案内すると、いい大人が仲よく足を洗う。

そのまま1階のリビングに通し、ソファをすすめた。

ふたりは腰掛けると、今川が無言で手に持っていた茶封筒の中身を取り出し、浦野に渡す。

「これは冴木佑美さんの検死報告書だ」

「…………」

数時間前の凄惨な光景がよみがえった。

「大丈夫かい?」

「……はい」

「直接の死因は、全身強打による内臓損傷と断定した」

「ッ……」

俺は必死で涙をこらえる。

「ネットカフェの防犯カメラ及びエレベーター内の監視映像、非常口の取っ手の指紋などから、彼女はひとりで屋上へ向かったものと推測される。よって飛び降り……」

「自殺なんかじゃ!!」

俺は思わず大声を出す。

「……そうだね。俺もそう思うよ」

「えっ!?」

その言葉に戸惑う俺。

やっと、”呪い”という非科学的要素が現実味を帯びてゆく。

「飛び降りが、人の手によるものか自らの意思によるものかは、死体の損傷状況を見れば容易にわかる」

「じゃあ、佑美は!?」

「不可解……、としか言いようがない」

「不可解?」

俺の言葉にふたりは深くうなずいた。

「自殺を決意して飛び降りた人間は普通、身を守るように落ちたりしない。だが、遺体は手足の損傷がひどかった。それは、彼女がとっさにそうしたからだ」

……いいや、ちがう!

とっさに身を守ったんじゃない。まっ先に手足が犠牲になるよう仕向けられたんだ。”あの女”に……。

「ちがう! 佑美に憑いたアレがそう仕向けたんです。きっと、絶対に、それしか考えられません!」

「アレ……とは?」

「手足のない女です。思い出すだけでもゾッとします。あの顔……あの目」

膝を掻きむしるようにこすった俺の姿を見て、今川はカバンからタブレットを取り出し、テーブルにそっと置く。

「たとえば、……こんな?」

「え!?」

画面には四角い箱の映像が流れていた。



 
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