ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ 【完】
「とにかく、教え子風に演技をすればいいのね?」
車内に重苦しい雰囲気はなかった。
「あぁ。できる……?」
「私、小学校の頃、演劇クラブだった」
「マジ?」
「うん、だから大丈夫!」
一度は心が折れかけた沙奈も、答えを知るための勇気はまだ備わっていたようだ。
車は高速から山道へ。
時間が経つごとに携帯の電波は減っていった。
出発から約2時間半、目的の病院に到着。
周囲を山々が囲み、外壁の白はより一層映えて見える。
たしかに、”極秘”と呼ぶにふさわしい場所だった。
「キミらが頼みの綱だ、しっかりな!」
「「はい」」
車から降り、俺たちだけで受付へと向かう。
浦野から教えられた名前を書きこむと、小窓から目で合図を送る職員。
すると、その視線の先でパイプ椅子に座っていた警備員が、新聞を畳んで立ちあがる。
「キミたち、彼女とはどんな関係だ?」
「東新田小学校のときの、恩師です」
「んー……」
うしろポケットから取り出した紙をまじまじと見つめる警備員。
きっとそこには、彼女が在任した小学校の名前や細かな情報が刻まれているにちがいない。
「キミは今、いくつだ?」
「18です」
「…………」
なにやら頭で計算したあと、
「こっちだよ」
と、急に優しい口調で案内してくれた。
……さすが、浦野刑事!
彼はすべて計算済みだった。
廊下を進む最中、
「キャアァアーーッ!」
「あ゛あ゛あ゛ぁあ゛!」
周囲にこだまする奇声。
そう、ここは非日常が日常の世界。
ただならぬ雰囲気に沙奈は顔色を悪くし、俺は少しだけ尻ごみした。
そんな声にも動じず、職員たちは淡々と仕事をこなしている。
「ここだよ」
ある病室の前で警備員は立ち止まると、スッと手を伸ばして微笑んだ。