ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ 【完】
「それからはもう、再び心臓が動きだすことはなかったわ」
母親が瞳をうるませたまま、つぶやくように言った。
「「…………」」
俺たちは知る。30分間の奇跡を。
そして、俺だけが知っている。
……川本くんも、小泉も、佑美だって……。
凄惨な姿になっても生きていた。
それを”奇跡”と呼ぶのかもしれない。
時間はほぼ同じ、30分。
彼らは切に願っただろう。
“生きたい”と……。
磨理子の思いがそこに宿っているのだ。
呪われし禁断のゲームとは、ただの理不尽な殺戮ではなかった。
……自業自得だ。
頭の中にそんな言葉が浮かぶ。
俺たちは、伊達磨理子の哀しき人生を知ろうともせずに、あのゲームを始めた。”所詮、都市伝説”と、笑って。
こうした安易な思考回路を、”怨念”という手段でねじ伏せ、自分の存在を世間に知らしめる。
さらに、呪いを伝播(でんぱ)させる理由は、母親の言う通り、事件に関わった者に辿り着きたいから……かもしれない。
後悔と自責の念に駆られる俺に、すべてを吐き出し落ち着きを取り戻した母親が言う。
「私は呪いや祟りなんて信じていない。だけど、その根源が娘なのだとしたら、正直そういうものの否定もできないわ。ただ……あなたたちが関係ないのも事実よね。悪いのは、あの事件を闇に葬ったゆがんだ世の中と、娘をあんな風にした狂った大人。だから……」
彼女はベッド脇の引き出しを開ける。
そして、1冊の分厚いノートを俺に差しだした。
「これって……?」
「周りには、私の日記だと言っているわ。……だけど、本当は娘の日記なの。もしかすると、この中に終わらせるヒントがあるかもしれないわ」
俺は目を見開いた。
終わらせるヒント……!?
暗く長いトンネルの中に、ひとすじの光が射しこんだような気がした。
「はい! ありがとうございます! この日記、必ず、必ず返しにきますから!」
そのとき、
「そろそろ時間だ。いいかな?」
と、再び警備員が顔を出す。
とっさにノートを服の中に隠した。
「はーい! 大丈夫でーす」
沙奈が背後に周り、俺を庇う。
「先生、またね!」
「えぇ、いつでもいらっしゃい!」
こうして、俺たちは病院をあとにした。