「約束」涙の君を【完】
「入って」
祥太は扉を支えていた。
私は頷いてから、そっと中に入ると、また祥太は鍵をかけた。
「こっち」
祥太が私の腕をつかんで引っ張った。
まるで木でできた迷路のような中を引っ張られるがままに歩いた。
そして、
突然、目の前が開けた。
広く開いた土地に、私よりも背の低い木々が間をあけて植わっていた。
「ここって…?」
祥太は私の腕をつかんだまま頷いた。
「父ちゃんのいる大学の研究所だよ」
「研究所…すごく広いね…」
ものすごく広大な土地だと思った。
ここだけ、周りと木が違う。
「確かにこれだけの土地の木を…
父ちゃんたちは大学の研究のために切った。
でも、全部を切ったわけじゃないし、ちゃんと土を入れ替えて、切った木の数以上に植林したんだ」
「しょく…りん?」
「木を植えたんだよ。
父ちゃんは大学で森林のしくみとか、森林の育て方とか、そういうのを学生に教えているんだ。
ここはね、演習林っていうんだ。
植えた木の所が、植林地。
今通ってきた所、天然の木が植わっているのが雑木林。
生えている木もそれそれぞれ違うんだ。
周りからしたら、ただ、木を切っているだけに見えるかもしれない。
でも、違うんだ。
逆なんだよ。父ちゃんは森林を守りたいんだ」
その時、ガヤガヤと人の声がしてきた。
「やばい、こっち」
祥太は小さな声でそう言うと、私の腕をまた引っ張って、
丸太が積まれた裏に連れていった。
丸太の脇からそっと声の方を見ると、
白いヘルメットをかぶった人たちがぞろぞろと歩いていた。
「夏休み中は、学生が時々いるんだ。
行こう」
腰をかがめて歩きだした祥太の後を、私も腰をかがめて追いかけた。