意地悪な彼が指輪をくれる理由
「ま、マネージャー!」
「おはようございますっ!」
「……おはようございます」
エリアマネージャーの木元(きもと)。
スタイリッシュなスーツとメガネを知的に着こなしたイケメンマネージャーである。
それだけであればぜひともお近付きになりたいものだが、この上司、いかんせん怖い。
「もう開店時間は過ぎているんですよ。お客様もフロアに数名いらっしゃいます。それなのに売り場に背を向けて話し込んでるとは、一体どういうことですか」
彼はいつも冷たい表情で淡々と私たちを責め上げるのだ。
「すみませんでした……」
「今月はあと31万5千円です。給料日直後の今が勝負なんですからね」
「はい、頑張ります……」
このマネージャー、御年26歳。
私たちより年下のくせに生意気だ。
しかし、彼の言うことはいつも正しいから何も言い返せない。
「鈴鹿店長。あなたの査定はこの店舗の売り上げにかかっていることを忘れないでくださいね」
だめ押しの言葉に、祐子さんの背筋がさらに伸びる。
「重々承知しております」
そしてお客様にするように、きっちりと頭を下げた。
「ご家族のためにも、しっかり頑張ってください」
「お気遣いありがとうございます」