実は、彼女はご主人様でした。
「……ただ目が合っただけですよね。それだけですよね」

「だからなんだよ。目が合って嬉しそうに笑顔を向けてたのは美倉だろう」

「私はただ、笑顔で返しただけです。別に嬉しいなんて感情を出したことはありません」

「はぁ?何をいまさら。俺が美倉のこと好きな事知ってんだろ。本当は知ってるくせにこんな扱いは酷いねぇ」

「私にその気はありませんから、先生の求めている言葉を一言でも口にすることはしません」



一瞬の沈黙の後、桜雪は少しずつ先生から離れていく。

先生も桜雪と同じように少しずつ桜雪に近づいて行った。

視線は一瞬でも離すことは出来ない。



「さすが、学校一人気のあるだけのことはあるね。そんな言葉、普通出てこないと思うぞ。まぁ、だからこそ俺も気に入ったんだけどな。分かった。ここは大人の俺が折れよう。じゃ、美倉、付き合おう」

「嫌です」

「何が嫌なわけ?」

「性格」

「は?」

「好みじゃありません」

「…ちっ…」

「そして、私、彼氏いますから」

「知ってるよ。何の印象にも残らない平凡な生徒だったよな。漠然としか俺の記憶にはない」
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