実は、彼女はご主人様でした。
「……母は、訪れることのない家族の平和な日常をいつも願っていた。この映像の様な当たり前に見える家族像は、桜雪の家族間にはなかった」



繰り返される映像を見て泣いている母親の姿が悲しく見える。
取り乱すことなく見ている姿は、平和な時間が来ない現実を分かっているようだった。

そんな母親に桜雪は静かに掌をかざす。

出てきた黒いモノは、見ていたビジョンからは想像もつかないほど大きなものだった。



「……大きいな…」

「これだけ繰り返し願ったことだ。これだけ憎悪が膨らんでもおかしくはないだろう」



大きな黒い塊は、何の躊躇もなく桜雪に吸収されていく。

真人の気のせいか、力が蓄えられていく桜雪がどこか笑っている様に見えた。

余裕と言えばそれまでなのかもしれない。

けれども、その笑みは華やかな笑顔ではなく、何かを楽しんでいるけれど、無邪気さが感じられない不思議な笑みだった。


負の感情を抜き取られた母親は、その場に座り込み、現実の世界に戻った家の天井を見て泣きながら笑っている。

力なく体を揺らし笑うその姿は、真人の瞳に恐ろしく見えた。


そして母親の状況に構うことなく桜雪は次を促す。
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