四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「バイロイト、立てる?」
わざとだ。
わざと、近くにシャゼリズ・ゾペロを投げ捨てたんだ。
バイロイトの反応をみたんだろう。
「だ、大丈夫です」
僕はバイロイトの手を握って、立たせてやった。
その手は昔と変わらず、温かかった。
昔、バイロイトは幼い僕の手を引いて帝都の街を歩き……中央市場の露天で揚げ菓子を買ってくれた。
---竜族には人間のように兄弟はいないけれど。セレがうちに来てくれたから、私には弟ができたね。
藍色の目を細めて、揚げたての菓子を頬張る僕の頭を撫でてくれた大きな手。
今は僕の手も同じような大きさになって、バイロイトのこの手を大きいとは感じないけれど。
覚えていた温かさが変わらずそこにあることに、心臓の右隅がちくりと痛んだ。
「セレ、指示をお願いします。できるだけ細かく。私では最善の判断が出来ません。『専門家』である貴方にお任せします」
僕の手が多くの者を屠ってきたのを、バイロイトは知っている。
でも、先代竜帝の『実験』については知らない。
それでいい。
もし知ってしまったら。
自分の母親が僕にしたことに、バイロイトはきっと耐えられない。
「バイロイト。死ぬ気は、覚悟はあるかい?」
バイロイトの手を握る僕の手は君の目に見えぬ血肉にまみれ、明るい場所で歩む者には嗅ぎ取れぬ憎しみに浸って腐臭を放つ。
この手で戦って、闘って。
勝って、僕は生き残ってきたんだ。
「はい」
迷いの無い返事を聞き、僕は決断を下す。
「クロムウェルにバイロイトを事務所へ転移してもらう。負荷で身体に支障が出る可能性もあるけれど、近距離移動だからたいしたことはないはずだ。大丈夫、あっても軽いめまいや吐き気程度だよ」
<監視者>に赤の大陸から転移させられたダルフェは、生ゴミ状態だったっけ……僕は脳裏に浮かんだ光景を否定した。
クロムウェルは転移は不得手だと言うが、それは自分自身の中の基準であって……。
雇用する気の無かった陛下がこれを契約術士にしたのは、<監視者>の一言があったからだった。
この男はあの<監視者>に「買え」と、言わせたほどの術士だ。
「いいかい? コナリ達を守るんだ。地下の避難道を使って街外れまで行って、そこから帝都に向かって飛べ。僕達を待つんじゃないよ? 全速力で帝都に帰るんだ」
僕の刀を転移させたあの精度があれば、直線距離で十数ミテしかない事務所にバイロイトを転移させても、四肢のどこかを失うなんてことは無い。
竜体で飛べなくなるほどの負荷を負うことは無い。
任せて、大丈夫だ。
わざとだ。
わざと、近くにシャゼリズ・ゾペロを投げ捨てたんだ。
バイロイトの反応をみたんだろう。
「だ、大丈夫です」
僕はバイロイトの手を握って、立たせてやった。
その手は昔と変わらず、温かかった。
昔、バイロイトは幼い僕の手を引いて帝都の街を歩き……中央市場の露天で揚げ菓子を買ってくれた。
---竜族には人間のように兄弟はいないけれど。セレがうちに来てくれたから、私には弟ができたね。
藍色の目を細めて、揚げたての菓子を頬張る僕の頭を撫でてくれた大きな手。
今は僕の手も同じような大きさになって、バイロイトのこの手を大きいとは感じないけれど。
覚えていた温かさが変わらずそこにあることに、心臓の右隅がちくりと痛んだ。
「セレ、指示をお願いします。できるだけ細かく。私では最善の判断が出来ません。『専門家』である貴方にお任せします」
僕の手が多くの者を屠ってきたのを、バイロイトは知っている。
でも、先代竜帝の『実験』については知らない。
それでいい。
もし知ってしまったら。
自分の母親が僕にしたことに、バイロイトはきっと耐えられない。
「バイロイト。死ぬ気は、覚悟はあるかい?」
バイロイトの手を握る僕の手は君の目に見えぬ血肉にまみれ、明るい場所で歩む者には嗅ぎ取れぬ憎しみに浸って腐臭を放つ。
この手で戦って、闘って。
勝って、僕は生き残ってきたんだ。
「はい」
迷いの無い返事を聞き、僕は決断を下す。
「クロムウェルにバイロイトを事務所へ転移してもらう。負荷で身体に支障が出る可能性もあるけれど、近距離移動だからたいしたことはないはずだ。大丈夫、あっても軽いめまいや吐き気程度だよ」
<監視者>に赤の大陸から転移させられたダルフェは、生ゴミ状態だったっけ……僕は脳裏に浮かんだ光景を否定した。
クロムウェルは転移は不得手だと言うが、それは自分自身の中の基準であって……。
雇用する気の無かった陛下がこれを契約術士にしたのは、<監視者>の一言があったからだった。
この男はあの<監視者>に「買え」と、言わせたほどの術士だ。
「いいかい? コナリ達を守るんだ。地下の避難道を使って街外れまで行って、そこから帝都に向かって飛べ。僕達を待つんじゃないよ? 全速力で帝都に帰るんだ」
僕の刀を転移させたあの精度があれば、直線距離で十数ミテしかない事務所にバイロイトを転移させても、四肢のどこかを失うなんてことは無い。
竜体で飛べなくなるほどの負荷を負うことは無い。
任せて、大丈夫だ。