四竜帝の大陸【赤の大陸編】
悲鳴は聞こえてこなかったから、まずは咽喉をやって……うん、まぁ、姫さんに見られてなきゃどんな殺し方しようが問題無しだ!

「服、汚れたからいらないわよね? “あれ”はダルフェに残しておいたわ」 

カイユはそこからふわりと跳び、俺の右隣に立って言う。

「転移で逃げるかと思って一応警戒していたんだけど、どうやら短距離転移すらできないみたい。あんな低級な術士を赤の陛下が雇っていたなんて、赤の大陸は術士がずいぶんと不足しているのね?」

それは、なんの含みも無いカイユの素直な感想だったんだが。
奴には嫌味と聞こえたらしく、血の気の引いた顔が瞬時に赤く染まっていく。

「こっ……こ、この狂犬共めっ………ダルフェッ、貴様のせいで俺はっ…………ぁ!?」

「よ! 久しぶり。生きてたうえに無事に再就職できてたんだな、おめっとさん! 当たり前だけど、老けたねぇ~。あんまり変わってて、最初は分からなかったぜ?」

俺の言葉に、奴は答えない。
文句のひとつも言いたいだろうに、その口をもう動かすことは不可能だから。
……っつーか、聞こえてなかったか?
刀をはらい、朱色の鞘に刃を戻した俺に。

「ダルフェ、“確認”は?」

右手を差し出したカイユが言った。

「あぁ、確認……ね」

刀を返し、胴から分離した頭部を左手で掴み上げ。

「せ~の~……とうっ! お? 新記録じゃね~の!?」

俺は、遠投してみた。
うん、これでいいんじゃないか?
死んでること間違い無しなうえ、蘇生不可能!
人間が頭落とされたら確実に死んでるしな。

「あら。私も久しぶりにやってみようかしら? 幼竜の頃、父さまの『仕事』についていって、すぐ片付いてしまって時間があまったから、飛距離を競って遊んだの……懐かしい。あっちのは踏み潰しちゃったから、別のをあそこの天幕から調達してくるわ。……ふふ。あの子供、投げやすそうなサイズだったわよね?」

すらりと抜いた刀の切っ先で俺がさっきシャデル少年を置いてきた天幕を指し、カイユは言った。

「はい!?」

愛娘となんつー遊びしてんだ舅殿はっ!?
ってか、俺も赤の竜騎士時代は飯代かけて、仲間とよくやってたけどな!!


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