淡い初恋
あの二人が仲たがいするのに、そう時間は掛からなかった。普通だったらほんの少しのすれ違いでもすぐに蟠りが解消されたはず。しかし、二人が仲直りする素振りを見せなかったので多分、高梨希は大人しい女だから誕生日にショッピングモールで私達を目撃したことを彼に言えなかったんだろうなと私は推測した。でも、その方がもはや好都合だった。これで堂々と私は千堂くんにアプローチが出来た。

放課後、彼のところに行くと「ねぇ、もう彼女と別れたの?」と白々しく聞いてみた。原因は自分にあるのに。すると彼が、別にと応えたので「じゃぁ、私と付き合ってよ。」と言った。すると彼は、別にいいよ。と応えたので私は、その一言で遂に高梨希に勝った、彼を手に入れたと心の底から喜んだ。

今日は、私以外家族は留守だった。「今日は、父は接待があるとかで銀座でパーティーに出かけたでしょ。母は若い愛人と多分朝帰りするでしょ。兄は医大生で生理学、薬理学とかの授業が終わった後、部活をやってそのままメンバーと飲みに行くの。だから帰りが遅いから大丈夫よ。」と彼に説明をした。「うち父が厳しくて、いつも私は怒鳴られてばっか。出来の良い兄は褒められてのぼせ上がってるしね。日に日に嫌味が増してイライラする。」と気づいたら彼に愚痴をこぼしていた。

「あ、ごめん。私ったらつい。」と口を手で隠すと「別に。」と彼は言った。


「ここよ、入って。」と言って彼を家に案内すると玄関で掃除をしていた家政婦が「おかえりなさいませ、お嬢様。」とお辞儀をした。私は、彼女に他言せぬよう耳打ちをすると、その少し年配の家政婦は道理を分かっているのか、承知を致しましたと言うと自分の仕事に戻った。

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