不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】

…錯覚

しばらくそのまま時間が流れる。彼はただ私を抱きしめていた。

温かい彼の胸に納まっていると、私はあの当時に戻ったようだった。

何も知らない、純粋だったあの頃に…

鼻を擦り付け彼の顔を見上げた。


彼はデータ入手中といってからどのくらいの時間が流れたのだろうか?

以前なら、こういう時に何か話しかけても彼は聞く耳を持たなかった。

仕方がない…

待つしかない…


こうやってずいぶん風変わりな彼との関係に

折り合いをつけてきたのは、もうずいぶん前の事だった。


大希さんは、ほとんど我慢するとか待つとかいうことをしなくても、

私のペースに合わせて、いつもさりげなく私を優先してくれた。

瑞希は勘がいい従順なおとなしい子供で、あまり私を困らせたことはなかった。


そんな大切にされている、わがまま放題の私なのに、

まさとのわがままなら無条件に受け入れられる。

これが愛なのだろうか?


「…ほうちゃん。ありがとう。おしまい」

抱擁を解き私に向かって満面の笑み。あの魅惑のエクボは健在だ。

いったい何のデーターを入手したのだろう。

「どういたしまして」

完全に彼ペースだ。
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