キミと生きた時間【完】

「そんなことするなんて、女子って陰湿(いんしつ)だよな~」


いつの間にか隣に並んでいた田中君。


あたしは何も言わずにグッと拳を握りしめて歩き出す。


「ちょっと待ってよ!ていうか、俺、力になるよ!!浅野さんをいじめてるのって、美奈子たちのグループだろ?」


足を速めると、田中君も同じようにスピードをあげる。


「俺、浅野さんの代わりに直接あいつらにガツンっていってあげようか?」


田中君の明るい声が頭に響く。


「いじめって、やられてる側が黙ってるから相手もつけあがるんだって。一度言い返せば立場逆転だって!!」


「……――めて」


「それかさ、担任に話してみる?あっ、親にはもう話した?俺も小学生の時いじめられてたんだけど、今はその体験をちゃんと克服したし、浅野さんも頑張れよ~!いじめになんて負けんなよ!」


「お願い、やめて」


ずっと我慢していたけれど、もう限界だった。


あたしはその場にピタリと立ち止まった。



やられてる側が黙ってるから相手もつけあがる……?


一度言い返せば立場逆転?


そんな簡単なことじゃない。


言い返すでこの苦痛が終わるなら、とっくにそうしている。


だけど、そんな単純なことなんかじゃない。


いじめはもっともっと、根の深いもの。


それに、頑張れなんて言われたくない。


頑張っても頑張っても、どうしようもないことだってある。


小学校のときにいじめられてた……?


その体験を克服した……?


ねぇ、田中君。


いじめられた経験があるのなら、どうして傷をえぐるようなことを言うの?
< 38 / 326 >

この作品をシェア

pagetop