キミと生きた時間【完】
「そんなことするなんて、女子って陰湿(いんしつ)だよな~」
いつの間にか隣に並んでいた田中君。
あたしは何も言わずにグッと拳を握りしめて歩き出す。
「ちょっと待ってよ!ていうか、俺、力になるよ!!浅野さんをいじめてるのって、美奈子たちのグループだろ?」
足を速めると、田中君も同じようにスピードをあげる。
「俺、浅野さんの代わりに直接あいつらにガツンっていってあげようか?」
田中君の明るい声が頭に響く。
「いじめって、やられてる側が黙ってるから相手もつけあがるんだって。一度言い返せば立場逆転だって!!」
「……――めて」
「それかさ、担任に話してみる?あっ、親にはもう話した?俺も小学生の時いじめられてたんだけど、今はその体験をちゃんと克服したし、浅野さんも頑張れよ~!いじめになんて負けんなよ!」
「お願い、やめて」
ずっと我慢していたけれど、もう限界だった。
あたしはその場にピタリと立ち止まった。
やられてる側が黙ってるから相手もつけあがる……?
一度言い返せば立場逆転?
そんな簡単なことじゃない。
言い返すでこの苦痛が終わるなら、とっくにそうしている。
だけど、そんな単純なことなんかじゃない。
いじめはもっともっと、根の深いもの。
それに、頑張れなんて言われたくない。
頑張っても頑張っても、どうしようもないことだってある。
小学校のときにいじめられてた……?
その体験を克服した……?
ねぇ、田中君。
いじめられた経験があるのなら、どうして傷をえぐるようなことを言うの?