キミと生きた時間【完】
「え?なんで?何か怒ってる?」
急にあたしが立ち止った理由に気付かない田中君は驚いたような声を上げる。
「怒ってないよ」
説明する気も起きず、あたしは小さく首を横に振ると再び歩き始めた。
「あっ、俺、ホント協力するから!!浅野さんへのいじめがなくなるように!」
「ありがとう。でも、協力なんていらないよ……」
「いやいや、いじめってさ協力者がいれば何とかなるもんだって!」
「ごめんね。あたし、行く場所があるから」
「だったら、俺も一緒に行くよ!今日は暇だし」
足を速めても、田中君はニコニコ笑いながらついてくる。
ついてきてほしくないから足を速めて、しゃべっていたくないから会話を終わらせようとしているのに。
それなのに、田中君はしつこく食い下がる。
宇宙君だったら……こんなことしないのに。
そのときふと宇宙君の顔が頭に浮かんだ。
「ごめんね。さようなら」
校門を抜けたところでそう言うと、田中君はギュッとあたしの腕を掴んだ。
「……――ちょっと、待って!!浅野さん!!」
「やだっ。やめて」
「俺のせいで浅野さんがいじめられているんだし、責任とらせてよ!!」
『いじめられている』というフレーズに反応するように、近くを歩いていた生徒たちが一斉にこちらを見る。
「……――っ」
さらし者にされているような恥ずかしさと屈辱で、胸に熱いもの込み上げる。
やめてよ、田中君。
お願いだから、もうやめて。
「……――お願い、離して!!」
その腕を振り払おうと抵抗した時、あたしの腕を掴んでいた田中君の手が何かによって弾かれた。