本音は君が寝てから
「じゃあ今晩、よろしくお願いします」
相変わらずの綺麗な礼。折り目正しい態度。
受け取って俺が呆けているうちに、踵を返して行ってしまう。
彼女の後ろ姿を見送ってから、メモに視線を戻す。
【森宮 綺夏 090-2267-○○××】
「もりみや、……なんて読むんだこれ」
初めて知った彼女の名前を、言葉に出すことさえ出来ない俺は、なんて情けないんだろう。
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その後すぐ『ショコラ』に電話をかける。
『はあ。要は閉店時間過ぎても追い出すなってことですね?』
「そういうこと。頼むぞ、相本」
『貸しにしておきます』
相変わらず可愛気のない奴だ。
アイツは頼み事をすると、必ず個人店では入手しにくい珍しいフルーツや香料なんかを頼んでくる。
ことスイーツに関しては図々しいことこの上ない。
それでも、今回ばかりはいいかと思えた。
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