本音は君が寝てから

 帰っていく取材陣を見送っていると、後輩シェフの牧田が忍び寄って来た。


「香坂さん、今のヤツ放送いつですか? 教えろって妻がうるさいんですよね」

「ああ。……聞かなかったなそういえば」

「マジすか。意外とうっかりしてますよね、香坂さんって。料理のことになるとすっごい細かいくせにさ」

「……何つった? 牧田」

「うわ、何でもありませーん!」


一睨みすると、慌てて牧田は逃げていく。

……何と言うか、牧田はテンションが若い。

シェフになって5年目だから20代半ば辺りだと思うんだが、未だに学生のノリを引きずっているようにも思える。

それでもあいつは既婚者なんだよなぁ。

そう思って周りは見回すと、俺の周りはもう既婚者ばかりだ。

同年代である40代はもう子供が高校進学とか言ってるし、後輩たちだって独身の方が珍しいくらいで。

「子供の○○会だから休みください」っていうやつもよく聞くなぁ。

 なのに俺はと言えば、たまの休みには誰とも話さずに一日を過ごすのが当たり前。

見た目はそう悪くない。

歴代の彼女たちは皆相手のほうから俺に告白してきたし、もてないわけでもなかったと思う。

それでも未だに独りなのには何かしらの原因が俺にあるわけで。


取材なんかでもてはやされたところで、
いい年して結婚してない男は、やはりどこかに欠陥があるんだと思う。



< 3 / 47 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop