本音は君が寝てから


「……なんか、疲れました。泣いたし」

「そうだな。とりあえず送ろうか」


一度ぎゅっと抱きしめるものの、周りの視線が気になる。
けれども彼女の方はもうふらふらしていて歩けそうになさそうだ。


「タクシー呼んでください」

「いいよ。おぶってやる。家は?」

「家は、えっとこっちです」


曖昧に指さされてもな。
この駅周辺じゃないだろう?


「どっち行けばいいんだ、綺夏」

「こっちです。あーいやこっち?」

「落ち着けよ」

「落ち着いてますってば。こっちでーす」

「適当に言ってるだろ! 怒るぞ?」

「いやあ、怒らないで」


全然先に進まない会話にイライラする……といいたいところだけど、実はそうでもない。

声を出して、ポンと返事が返ってくる。
それだけのことに胸が躍るようにウキウキしている。

俺はそんなに孤独になれきっていたのかな。
それとも、返ってくる声が彼女のものだから嬉しいのかな。


「……怒らないでください」

再び聞こえてきた彼女の声はか細くて、俺はまた出方を間違えたのかと不安になる。


「怒ってないよ。ただ、このままじゃ君を送っていけない」


ぎゅっと首を回ってる腕の力が強くなる。
おい、ちょっと苦しいぞ?

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