恋愛音痴と草食




 前々からここの佐倉さんはオモシロイ女性だなとは思っていた。佐倉さんはたぶん気づいてないだろうが、実は後輩にテキパキ指示して元気に叱りとばしているところや勤務を終え帰宅している時のぼーっとしているところを見かけたことがある。
 業務で自分と話している時の佐倉さんは間違った発言をしないようにビシッと隙をまったくみせない。


 得なのか損なのか大概まわりにいる女性はこちらに何か期待していたり、逆に必要以上に敬遠してきたりというパターンが多い。

 佐倉さんはたぶん後者だろうが、話していて彼女の真面目さをつよく感じるとともにたまに言葉の端々に感情が見え隠れする素直さは好ましく思える。

 自分と話している時以外の彼女の姿も見ていて不快な気分にはならなかった。

勿論そう思うのは仕事でここに来る間くらいのちょっとしたことだったからじきに忘れて同僚に負けないようバリバリ仕事に励んでいた。

 帰宅しても誰もいない環境にはすっかり馴れた。

 既に別の生活を送っていた妻は離婚してもしなくてもどっちでも好きにしたらいいと言われた。

 その言葉に自分も妻にはなに一つ期待していないことを悟り一緒にいる意味が無いと離婚することにした。

 妻は判を押しながら『あなた私といても面白いって思ってくれたことなかったよね』そう淡々と言った。

人がうらやむ美人を手に入れて、たぶんそれだけで満足してただけだった。

「キミに関心もつことが無かったからね」 

さばさばした様子の彼女が どうりでね と言い残して去った。

だからもし次に一緒になるなら興味がわく女性がいい。

それがたぶん絶対条件だ。
< 14 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop