恋愛音痴と草食
 なかなかこのデート話が終わらない。イケメンと食事するとこんな目にあうのか。罰ゲームかい。
参ったなぁと結子は自販機に手を伸ばしかけるとやっと特攻してきた彼女は離れた。

 ガコンと缶が落ちる。

背を屈め中の缶をとろうとすると近くに人の気配がした。

「小田桐顧問とだなんて珍しいですね」
やはり気配の主は加賀見博之だった。

 やれやれと思いながら結子はレモンティーの缶に指をかけプルタブをあけ、一口飲んで別にとでも言いたげな態度で素っ気なくたまたまでしょ?と返す。


「しばらく噂の的になりそうですよ」
博之は淡々と今の結子の状況をほのめかした。

「えー?そーなの?面倒くさいなぁ。正直食事どころじゃなかったから感想聞かれても困るんだよね」
ポリポリと頭をかいてウーンとうなる結子をちらっと見て

「そんなに緊張したんですか?」
と博之は尋ねた。

「緊張したよ。味どころじゃないしイケメンと食事するもんじゃない。ひろちゃんと食事してるときのほうがよっぽど楽しいよ。話合うし」
 何気無く結子が言った返事に博之が反射的に結子の目をまじまじと見た。

「……佐倉さん。それはどういう…」

「お。加賀見!すまんが昼イチでこのデータ作成してくれ」
博之の言葉を遮るように休憩室に上司がやってきた。

腕時計をチラッと見て結子は 先に行くね と 立ち去った。

…博之は無言で後ろ姿を見送るしかできなかった。
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