恋愛音痴と草食
 翌日昼に出社しひろちゃんと連れ立って会社を出た。

 幸い始発駅なので並んで席に座ることが出来た。発車してしばらくしてひろちゃんがフワァッとあくびした。

 やっぱり無理させちゃったみたいで申し訳なく思う。

「寝なよ。目的地着いたら起こしてあげるから」

「…じゃあそうします」
そう答えたひろちゃんからじきにスーッと寝息が聞こえた。

相変わらず素直だなぁ。

 私は隣に彼の体温を感じながら車窓をぼんやり眺める。

…実は混雑している場所とかですぐ近くに見知らぬ男性がいるのが私は少し苦手。男性特有の威圧感とか感じるからかもしれない。

でも、ひろちゃんの隣は落ち着く気がした。

 知っている人だからだと思うけどたぶんそれだけじゃない。

 加賀見君独特の穏やかで静かな空気のせいなのかもしれない。

 黙ったままの時間と空間だけど決して不快じゃないのが不思議だった。

 ひろちゃんはまったく起きる気配が無かった。私は黙って文庫本を読むことにした。


 気がつけば私はちょっと微笑んでいて、その事に自分自身ちょっと戸惑った。


目的地まではあと少し。


そうしたらかわいそうだけど起こさないとね。

車窓から見える傾いた太陽がまぶしくて私は目を細めた。
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