恋愛音痴と草食
 予約していたビジネスホテルに着いた。時間を決めて結子の部屋でささやかな慰労会をすることにして、それぞれ部屋に別れた。

 結子はシャワーを浴びて少しラフな服に着替えて髪を乾かしながら、会社からのメールをチェックしているとドアのノック音がした。

 時計を見ると2、3分約束していた時間より遅い。わざと少し遅らせたあたりさすがだなといつも思う。

 立ち上がってドアを開けると博之がいた。彼はアースカラー系な私服姿をしている。
 室内にたったひとつの椅子に博之を座らせ、その近くのベッドの端に結子は腰かけた。

 すぐ傍に寄せていたサイドテーブルの上に博之が手早くコンビニの袋から次々と中身を取り出しセッティングするのを結子は大人しく待つ。

「ありがとね。じゃ、お疲れ様ー」
 缶ビールをカチンとあわせると博之は お疲れ様でした とペコリと頭を下げた。

 一口グビッと飲むこの瞬間の解放感は格別で結子にとり至福の瞬間。それに今日は先ほどの件も上々だし気分がいい。

 結子は上機嫌で博之に今日の仕事の話をはじめる。

 博之は黙って聞き、時折口をはさむといういつもどおりのスタイルだった。身ぶり手振りや表情など実に豊かに場を盛り上げる結子とは対称的とさえいえる。

 だから本当は博之はいつも不安を抱えている。

……佐倉さんは俺と居て苦痛じゃないのだろうか と


 素面なら聞けないけど、今なら 聞けるかもしれない。

 博之はゆっくり缶チューハイをあおってチラッと結子を観察した。

 結子が酔いつぶれる姿を博之は見たことがない。酔いつぶれるというのは結子の美学に反するらしく、みっともない姿をさらしたくないといつぞや言ってのけていた。その時一緒にその場に居合わせた独身男数名が明らかに残念そうな表情をしたのをたぶん結子は知らない。

 そして、たぶん結子が気づいていないことはもうひとつある。
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